潮流の変わり目に

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トランプ時代を闘い抜く方法

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トランプ政権2期目が始まって1年が経った。権威主義的勢力は連邦政府を掌握しているものの、未だ社会全体を支配するには至っていない。彼等は甚大な被害を与えてきたが、その攻勢は、完全に行き詰まってはいないにせよ、既に頭打ちになりつつある。無敵ではないからこそ、彼等は常に力を誇示しなければならないのだ。ようやく、彼等を打ち負かすだけでなく、この情況を利用してこれまで想像もできなかったほど深い変革を実現する道筋を思い描けるようになってきた。

ここではトランプが再び権力を握るに至った構造的要因を再検討し、2025年の出来事を振り返り、トランプ時代を共に闘い抜くための戦略を提案する。

社会秩序が不安定であればあるほど、秩序維持には暴力的力が必要となる。


全ての船を沈める上げ潮

今日の米国における政治的危機は数世代にわたり進行してきた経済プロセスの結果である。ファシズムの台頭は一個人の扇動によって偶然生じたものではなく、利益追求型資本主義の論理的帰結である。

新自由主義的な秩序は、富裕層と貧困層の格差を拡大し、格差を維持するために警察を軍事化し、スケープゴートを求める社会的下降層を創り出すことで、こうした情況を招いてきた。グローバル化した経済では、投資家が資本を他へ移さない限り、政治家は有権者に対する資本主義の影響を軽減できない。1その結果、「左翼」政党は常に公約を実現できず、反動的な政党は公共政策と許容される言説を着実に右へと押しやり、中道派は政策や言説が後退するのを防ぐ一種のラチェットとして機能している。

数十年にわたり進行してきた富の分極化は、遂に質的な変化を生み出し始めている。2003年、ビル゠ゲイツは約400億ドルの資産を持つ世界一の富豪と見なされていたが、2025年10月、イーロン゠マスクの純資産は5千億ドルに達した。今日、世界で最も裕福な10人は最も貧しい30億人を遥かに上回る富を有している。富がこれほどまで不均衡に分配されると、支配階級は社会の大多数に対して圧倒的な権力を行使するようになり、代議制民主主義の性格そのものが変質する。イーロン゠マスクのような個人が通信プラットフォームを買い占め有権者を買収することで選挙結果を左右できるようになるのだ。

フォーブスによる「世界長者番付」1位の資産推移

このような情況下では、カーティス゠ヤーヴィンのような太鼓持ちが、億万長者はその経済的優位に見合う政治的優位を正式に持つべきだ、と主張しても不思議ではない。「国をビジネスのように運営する」--つまり独裁のように統治する--という政治家の願望は元々専制政治の幻想に過ぎなかった。経済の領域で権威主義に慣らされるに連れ、より多くの人々が政治の領域でもそれを受け入れる準備ができるようになっている。これがフィードバックループを生む。不平等が大きくなるほど、権威主義の人気は高まり、あらゆる政治派閥の人々が「自分達は弱過ぎて利益を主張できないのだから、代わりにそれを主張してくれる強力な擁護者が必要だ」と結論付けるのだ。

1世紀以上にわたり、民主主義は自由市場資本主義に政治的に対応するものとして機能してきた。どちらも個人に社会的流動性を約束しながら、君主制や封建制といった先行する制度に根本的に組み込まれていた不平等を温存している。2一時期、民主主義は経済と国家がもたらす暴力を、少なくとも比較的特権的な層に対しては、和らげる役割を果たした。しかし、経済的・政治的格差が深まるに連れ、資本主義も民主主義も、もはや社会秩序を安定させる機能を果たせなくなっている。

過去半世紀の間に、経済は他の面でも変化してきた。例えば、今日の億万長者は、投機によって増々富を蓄積している。ヘンリー゠フォードが車を売って財を成した3のに対し、イーロン゠マスクは主に株価の急騰を利用して富を築いた。ドナルド゠トランプもマスクも、はったり屋であり、その手口は、過去の成果が評価される前に次々と大風呂敷を広げ、一か八かの勝負に出るというものだ。暗号通貨ブームと同様、これは利益率が下落する時代の症状であり、従来の商取引よりも投機の方が利益を生むのである。

資本主義は、勝者に利益をもたらし続けるために、絶えず資源を燃やし尽くさねばならない炎のようなものだ。最終的に資本家は、国家そのものを、競争の舞台を安定させる手段ではなく、利益を吸い上げる場として扱わざるを得なくなる。利益が減退する時代には、国家を掌握し食い物にすることが、はったり屋にとって究極の一手となる。

何十年もの間、ロシアベラルーシトルコハンガリーといった海外の専制的国家でこうしたことが起きていると聞かされてきた。トーマス゠フリードマンやフランシス゠フクヤマといった新自由主義の論客は、これらは発展の遅れた社会であり、自由市場がこうした社会を「文明化」すれば、いずれ西洋に追いつくと信じていた。実際、時代遅れだったのは欧州や北米の民主主義国だった。ドナルド゠トランプとその取り巻きは、これらの権威主義社会が提示したモデルを研究し、それを米国に輸入したのである。4

これもまた、少数の悪意ある個人の企てに還元できるものではなく、構造的発展の結果だった。1950年代、米国とソ連は、自らの帝国主義的冒険の標的となった地域で資源を直接採掘することで、自国民向けの社会的セーフティネットを部分的に支えていた。ソ連圏の崩壊後、世界は2つの領域に分断された。一方には、帝国中心部の裕福な消費国があり、そこでは多くの市民が民主主義の特権を享受した。他方には、帝国の周縁に位置する貧しい生産国があり、そこでは大多数が安価な労働力として扱われ、それに見合う抑圧的な体制下に置かれた。経済格差が拡大し、帝国中心部での生活が一層不安定になるに連れ、ここでも政治的自由が侵食されつつあるのは驚くべきことではない。同時に、海外で実践されてきた様々な形の抑圧が国内へと持ち込まれている。エメ゠セゼールは後者の傾向を「帝国主義のブーメラン」と呼んだ。

2021年に行進する「愛国者戦線」グループのファシスト達。ファシズムの台頭は新自由主義の諸結果の論理的帰結である。

しかし、弱肉強食の資本主義・焦土政策・力づくの支配への移行は、支配階級にとっても危険を伴う。以下で見ていこう。


世界革命が起こらない限り、資本主義がもたらす危機は、社会不安を引き起こし続けるだろう。それは、何らかの大規模で新たな統制機構もしくは宥和機構が現れるまで続く。

グローバル化した世界では、国家構造はこれらの危機を押し付け、永続させざるを得ないが、その影響を緩和する力は次第に失われている。こうして国家は、一種のホットポテト(難題)と化している。エジプトでのムルシー失脚が示したように、誰が権力を握ろうと、そのリスクは自ら負わねばならない。一方、危機の局面では、国家の抑圧勢力に対して効果的に行動できる者が、国民的な信頼を獲得していく。

ウクライナ革命と社会運動の未来

2022年1月のカザフスタン蜂起の際、アルマトイの大統領官邸が略奪された後に残された玉座。


トランプ2.0

ロシアにおける専制政治の台頭を追ってきた人々ならば、それが定着すると何が起こるか分かっているだろう。見た目にはほとんど変化がない。警察は取締りを続け、大家は家賃を徴収し続け、人々はいつも通り仕事に向かう。専制政治への移行がこれほど円滑に進むのは、ファシズムに必要な要素全てが民主主義の下で既に揃っていたからだ。それでも、明らかな兆候はある。国家に雇われた準傭兵部隊が、マスクと重武装をして街中に配備されているのを増々頻繁に見かけるようになる。抗議行動は次第に困難で危険なものになり、最後の抗議者達は何も書かれていない紙を手に独りで立っていただけで逮捕される。そして遅かれ早かれ、治安機関が国内情勢を掌握すると、政権は戦争に踏み切る。ファシズムには常に国民を動員すべき敵が必要だからだ。

第2期トランプ政権は、現在生きている人々の記憶にある限り米国で起きたことのない権威主義の実験である。今回、トランプはほぼ全ての行政府と最高裁判所を事実上掌握し、シリコンバレーの後ろ盾さえ得ている。確かに、米国は元々白人至上主義・家父長制・植民地主義的暴力の上に築かれてきた。新たな情況を踏まえて自らの分析を更新しようとしない人々は、現実を否認しているに過ぎない。

グレゴリー゠ボヴィーノ。国土安全保障長官クリスティ゠ノームから、法令上の根拠を持たない「特命指揮官(Commander at Large)」に任じられ、2025年下半期にロサンゼルス・シカゴ・シャーロット・ニューオリンズでICEによる強制捜査を指揮した。民主制から専制政治への移行期には、旧来の手続きの外で活動する新たな軍事集団が現れる。

この分析の目的上、ここではトランプ連合を構成する各要素を動かす戦略的枠組みや目的については深入りしない。具体的には、トランプの手中に独裁的権力を集中させようとするヘリテージ財団の「単一執行府理論」、社会全体の支配を目指すキリスト教ナショナリストの「7つの山の使命」、軍や警察が抗議運動や統制しがたいコミュニティに対して用いる暴動鎮圧戦略、ジェントリフィケーションの手段として大量虐殺を確立するための試験場としてパレスチナを利用しようとするキリスト教徒とユダヤ教シオニストの動き、そして、罰を受けずに略奪する権限を求めるシリコンバレー企業・石油会社・暗号通貨の利益追求者達である。

ここでは、トランプ政権の当初の目的の一部を確認するに留める:

  • 連邦官僚機構と軍にドナルド゠トランプ個人に忠誠を尽くす役人だけを残し、それ以外を排除する。
  • トランスジェンダーの人々や黒人女性など危険視・敵視される集団を連邦官僚機構と軍から排除する。
  • 多様性と平等主義を推進する全ての施策を抑え込む。
  • 行政府に権力を、法的にも実際的にも集中させる。
  • 米国移民・関税執行局(ICE)のようなトランプへの忠誠が最も高いとされる連邦機関に資源を集中させる。
  • 司法を弱体化・圧倒しつつ、最高裁判所を使って法的障害を取り除く。
  • 司法省を政治的兵器として利用し、敵対者を訴訟の標的にする。
  • 立法府を従属させる、あるいはその実質的影響力を奪う。
  • 共和党の直接統制下にない政府支援機関を全て廃止、またはそれらに対する資金提供を停止する。
  • 訴訟・資金差し止め・異論を封じる政策を通じて大学と教育分野全体を従属させる。
  • 訴訟・買収・脅迫を通じて敵対的なメディアプラットフォームを抑圧する。
  • 医学研究、気象予報、経済・環境統計、気候変動や食料アクセスに関するデータなど、望ましくない情報を収集したり、流布したりする可能性のある全ての機関を抑圧・資金停止・信用失墜させる。
  • 行政指導部が株式取引・暗号通貨・その他のビジネススキームを通じて政治的権力を私的利益に換えられるようにし、国家とビジネスの連携を通じて富を搾取できるようにする。
  • 米国外交政策を主に政権指導部に打算的な取引関係へシフトする。
  • 米国を専制国家と地政学的に同調させ、極右政党やファシスト政党を世界中で支援する。
  • 外交政策において白人至上主義を中心に据える--例えば、白人アフリカーナーを除く南アフリカ難民の地位を制限する。
  • 反ユダヤ主義との闘争という言説をキリスト教ナショナリズムの計略に都合よく利用する。
  • 一党支配を守るために選挙区を不正に改編(ゲリマンダー)する。
  • 威嚇・資金の統制・予備選挙で忠誠派を対立候補として立てるという脅しを通じて、党内の忠誠を強制する。
  • 汚職と大統領恩赦の両方を常態化し、これらを併用して全政党の政治家や他の有力者を従属させる
  • 米国内外で民間人を標的とする軍事作戦を常態化し、内乱鎮圧に特化した軍隊を設立する。
  • 国土安全保障省・連邦捜査局・その他の連邦諜報機関の任務を転換し、主に国内の異議・反対勢力を主な標的とする。
  • 経済的混乱や標的を絞った取締り活動により、政権に敵対的とされる地域の生活の質を低下させる。
  • 非営利団体を含む政治的敵対者への資金流を断ち切る。
  • 「情報洪水」:グリーンランドやカナダを併合すると脅すなど、常に限界を押し広げて敵を呆然とさせ、注意を逸らす。
  • 標的となったコミュニティや政治的敵対者に恐怖を植え付ける。

ナチスがドイツを掌握した際、彼等の「グライヒシャルトゥング」(強制的同一化)政策--電気工学に由来する統合の比喩--は、他のあらゆる政治政党と政治組織を迅速に排除した。トランプ政権は、同様のことを行おうとすれば統制できない反発を招くと分かっていた。上記した政策群は、彼等が反発を受けずに押し通せると考えた最大限のものである。

ICEに資源を集中させることは、人口構成を強制的に改変する手段であると同時に、ほとんどの人が将来の見通しを失いつつある社会において、傭兵的暴力を収益産業として確立する方法でもある。

2025年末の時点で、トランプ政権は上記の目標の大半を既に達成している。彼等は依然として次の作戦段階に進むための充分な推進力を持っているのだろうか?


幕開け

第1次トランプ政権は、数千人のデモ隊が政権に抗議してワシントンDCの街路に繰り出す中で幕を開けた。これは、最終的にトランプを大統領職から退陣させることになる4年間に渡る激しい抵抗の前兆だった。第2次トランプ政権はプラウドボーイズがワシントンDCの街路を行進する中で幕を開けた。そこは、2017年1月20日にアナキストのブラックブロックが行進した場所でもあった。プラウドボーイズが首都に姿を見せたのは、2021年1月6日のクーデター未遂以来初めてのことで、トランプが彼等に包括的な恩赦を与えた直後だった。

2025年1月20日、アナキストなどの抗議者達は何処にいたのだろうか?第2次トランプ政権の幕開けに際し、多くの人々は、いかなる抵抗行動もトランプの思う壺になるだけだという考えに囚われ、身動きが取れなくなっていた。50501グループが2月5日に予定していた大人しい抗議行動を前に、パニック状態の一部のリベラル派は、それが戒厳令を宣言するための口実作りではないかと憶測した

「プロジェクト2025は、あらゆる大規模抗議行動を口実として、国内の法執行のために軍を投入し、必要とあらば致死的な武力の行使をも厭わないという具体的計画を示している。」

今日、どれほど多くの急進主義者がこの物語の一部を信じ込んでいたか、つい忘れてしまいがちだ。トランプとその支持者は、悪夢から抜け出してきたかのように、圧倒的な力だと映っていた。彼等を打ち負かすために4年全てを掛けて来たのに、結局彼等は以前よりも強くなって蘇ってきただけではなかったのか?他の政治派閥が混乱に陥る中で、国家機構を掌握するに連れ、彼等が生み出す恐怖こそが最大の武器となったのだ。ファシズムは認識の操作に依存するのだ。

2025年1月20日、ワシントンDCの街路に再び姿を現したプラウドボーイズなどのファシスト。


譲歩の終焉

国家の捕獲とは制度的汚職の一種であり、特定の利権集団が公的政策を形成する制度やプロセスを掌握し、公的政策を公共利益から逸脱させ、自らの利益に沿うよう操作する現象を指す。(ジョエル゠S)ヘルマン等は1990年代に、この概念を旧ソ連(FSU)と東欧の一部で移行期の最初の10年間に見られた行動パターンを説明するために導入した。(中略)国家を掌握したのは起業家達であり、やがて彼等は「オリガルヒ」と呼ばれるようになった。彼等は政治権力を握る個人や政党との私的なコネクションを利用し、直接のキックバックや便宜供与の約束を通じて政策形成への影響力を買い取った。「ビジネスが政治を捕獲する」という枠組みは、恐らく常に、この2つの領域が実際よりも大きく分離しているかのように誇張してきたのである。

エリザベス゠デイヴィッド‐バレット著、『国家の捕獲と発展:概念的枠組み』

イーロン゠マスクとその従者達はすぐさま、自らの富の蓄積に役立たず、市民を従わせることにも寄与しない政府機関を片っ端から解体し始めた。彼等が行った削減は、連邦予算を大きく減らすこともないまま、既に数十万人の死者を生み出している。「政府の効率化」など最初からどうでもよかったのだ。彼等は、国家が別の価値観を体現する新たな時代が到来したと誇示したのである。

アナキストである私達としては、もしこれら全てのプログラムが自律的な草の根プロジェクトによって維持されていたなら、ジークハイルを叫ぶファシストとその青二才の手下どもが、たった数カ月でそれらを解体することなど不可能だっただろう、と指摘せずにはいられない。より長い時間軸で捉えるなら、「国家の捕獲」とは2段階から成るものとして理解できる。第1に、国家機関が草の根の取組みに取って代わり、人々を増々国家に依存させていく過程である。第2に、国家が中立的な仲裁者として機能している、あるいは広く有益な役割を果たしていると見なされる必要性を全く感じない人々が、その国家を掌握する段階である。

しかし、ここで忘れてならないのは次の点である。そもそもこれらの取組み--援助プログラムや社会保障だけでなく、代議制民主主義そのものまで--を国家に統合した国家の担い手達は、自らが抑圧的な譲歩、すなわち社会不安を鎮めるために不可欠な譲歩を行っているのだと認識していた。だが、マスクとその同僚達は、抑圧の技術、あるいは無関心や絶望がこれほどまで進行した今となっては、もはやそうした譲歩は不要であると踏んでいる。

彼等はハードパワーがソフトパワーよりも価値があると見込んでいる。人々が米国の外交政策を支持することよりも、無差別な海軍攻撃によって殺されるかも知れないという恐怖の中で生きる方が望ましいと考えているのだ。最近の例を挙げれば、トランプはホンジュラスの腐敗した元大統領フアン゠オルランド゠エルナンデス(米国にコカインを大量流入させて巨額の利益を得た人物)を恩赦した。麻薬取引に対する軍事作戦を標榜している最中に恩赦することで対麻薬政策の信頼性を損ねるよりも、そこから得られる利益の方が価値があると判断したのである。

一般市民の多くに政府が正当だと受け取られるあらゆる仕組みを臆面もなく破壊することで、彼等は賭けに出ている。おそらく彼等自身が理解している以上に危険な賭けに。

ベルリンのデモ隊。ドイツ人は自国以外のファシズムを認めたがらないことで有名だ(「ファシズムはドイツ産でなければ、単なる権威主義に過ぎない」)。イーロン゠マスクは自分こそ本物だとドイツ人に納得させた。


パンは少なく、サーカスは多く

詩人ユウェナリスは、古代ローマの人々がパンとサーカスで買収され、民主的政治の終焉とローマ帝国として知られる独裁体制の成立を受け入れるようになったと書いている。人々を専制政治に慣れさせるための古典的な常套手段は、物質的な欲求を満たしつつ、自己決定に代わる活動へと注意を向けさせることである。

ドナルド゠トランプはさらに異例なことを成し遂げようとしている。彼は社会的セーフティネットの最後の残滓が破壊され、残された中産階級の多くが貧困化していく過程を統轄しながら、支持層を娯楽だけで買収しようとしている。彼の政権は経済を強化するどころか、むしろ不安定化させてきた。それはまるで、人々をより不安定で絶望的で搾取されやすい状態に意図的に追い込んでいるかのようだ。その見返りに、私達は彼の大統領時代という暴力的なリアリティ番組じみたゲームショーを眺めて満足しろと言われている。パンは少なく、サーカスは多く、というわけだ。

極右のプロパガンダが何を喧伝しようと、関税や移民取締りが米国の白人市民の経済的展望を改善することはない。既に米国の貧しい労働者階級は、海外の低賃金労働者が生産した安価な消費財によって辛うじて不満を抑え込まれていた。そうした生産拠点を米国に戻すことができるのは、絶望した米国人労働者が今よりもさらに低い賃金で働かざるを得なくなった場合だけだ。同様に、市場で最も低賃金の仕事を押し付けられてきた人々を追放すれば、商品やサービスの価格は他の全ての人にとってさらに高くなるだけである。

関税や強制送還の本当の理由は、それらが専制政治を機能させる仕組みだからである。つまり、ドナルド゠トランプが大統領執務室から政府・企業・一般市民に対して行使できる影響力を最大限に高める手段となるからだ。関税は、彼が自らの利益のために政府や企業と交換条件の取引を交渉できるようにし、強制送還は、彼に忠誠を誓う準軍事勢力を形成し、国内の敵と見なした者を攻撃できるようにする。トランプは、いわゆる司法省や訴訟全般と同様に、独占禁止法の仕組みもこうした目的で利用してきた。また、医療や教育への資金を打ち切っても、米国を政治的・経済的に強化することにはならない。それは単に、より多くの権力をトランプの手に集中させ、一般大衆を生き延びるだけで精一杯の状態にすることを狙っているに過ぎない。

何よりも、一般の人々を苦しみに、他者の苦しみにも自らの苦しみにも、慣れさせることが目的なのだ。これが、カリブ海や東太平洋での超法規的殺害・マフムード゠カリルをはじめとするグリーンカード保持者に対する理由なき暴力的逮捕・トランプが法制度を政治的な兵器にしようとしていることの核心である。だからこそ彼等は、最悪の残虐行為を秘密裏にではなく、メディア向けの見世物として行っているのである。

繰り返すが、これを単なる数人の悪意ある個人の傲慢さとしてではなく、構造的要因への反応として理解しなければならない。前世代の独裁者は、パンとサーカスという図式において、パンの側に資源を向けることに細心の注意を払っていた。現代の独裁者がそうしないのは、彼等が無謀だからではなく、現代の情況がそれを許さないからだ。その結果として生じる亀裂や脆弱性を私達は見極める必要がある。


第1ラウンド

第2次トランプ時代の幕開け時には、2020年に衝突した強力な草の根運動は、左右両陣営で共に勢いを削がれていた。2021年1月6日のクーデター未遂への対応や「ストップ゠コップシティ」運動への司法を通じた弾圧など、国家による弾圧が関与していた可能性が高い。しかしそれでも、これらの運動の沈静化は現代の謎の一つである。米国住民は皆、単にデジタルの観客となり、孤立へと押し込められてしまったのだろうか?

多くの人は、トランプの恩赦によってプラウドボーイズや右翼民兵組織が再び勢いを取り戻すだろうと予想していた。彼等に加わるはずだった多くの人は、その代わりにICE職員になろうとしたか、あるいは国家の諸機関がトランプの約束を実行に移すのを待っていたのかも知れない。しかし、ジョージ゠フロイド蜂起に参加した何百万人もの人々はどうなったのだろうか?

高速道路の封鎖や学生のストライキを伴う最初の制御不能な抗議行動は、2月初めにロサンゼルスで発生した。同月後半には、それに続いてテスラ販売店で最初のデモが行われた。春の間、抗議活動で最も多く見られた層は年配の中産階級リベラル派だったと言えるだろう。これは、広範な幻滅と不満がトランプの権力復帰を後押ししたことを示している。社会のほぼ全ての層は既に冷笑主義に陥っていた。生活に余裕のあるリベラル層だけが、未だ失うもの--自分達は民主主義の中で生きているという信念--を持っていたのだ。5

参加者がどれほど飼い慣らされていたとしても、テスラへの抗議行動は確かな影響を与えた。全国のテスラ販売店で毎週行われる抗議行動に加え、器物損壊や放火も相次いだことで、過大評価されていたテスラ株価の下落は加速し、3月10日には15%急落した。翌日、トランプはマスクからさらに1億ドルを受け取る見返りに、ホワイトハウスでテスラのコマーシャルを演出した。テスラ株価は反発したが、このパフォーマンスは抗議活動が効果を発揮している証左だった。また、両者の関係にさらなる緊張をもたらした可能性もある。

トランプ機構が無敵ではないと示す最初の兆候の1つは、4月1日、イーロン゠マスクが支持したウィスコンシン州最高裁判所の裁判官候補が選挙に敗れたことだった。しかもマスクは、2500万ドル以上を選挙に投入していたのである。翌日、トランプは関税を発表したが、これは米国の貿易政策を1930年当時にまでリセットしようとする拙い試みであり、イーロン゠マスクのような超国家的資本家がトランプを支持した際に想定していたものではなかった可能性が高い。テスラへの抗議活動は依然として続いていた。4月22日、マスクは不安を抱くテスラ投資家に対し、自分はワシントンD.C.から手を引くつもりだと伝えた。

5月27日、サンディエゴの地元住民がICE捜査官と衝突し、最初に広く報じられた抵抗の一例となった。その同じ日に、マスクはトランプの「ビッグ゠ビューティフル゠ビル」法案を批判した。トランプは5月30日にマスクを送り出す場を設け、これが両者が良好な関係を装うことのできた最後の日となった。

6月3日、ミネアポリスの地元住民がICEを地域から追い出した。翌日、シカゴやグランドラピッズで強制捜査を行っていたICE捜査官に民衆が立ち向かった。

6月5日、イーロン゠マスクとドナルド゠トランプの対立が一気に表面化し、マスクはトランプの名前がエプスタイン関連文書あると発表した上で、トランプは3度目の弾劾に値すると示唆した。

第2次トランプ政権の初期には、イーロン゠マスクのような資本家こそが玉座の背後にいる真の権力者で、いずれトランプよりも強力な存在になるのではないかと推測する者もいた。しかしロシアの例を見れば、ウラジーミル゠プーチンは国家装置を駆使して、どれほど裕福なライバルであろうと打ち砕くことに成功したと分かる。これまでのところ、マスクはトランプに比べ、遥かに弱い手札で動いている。国家が市場の条件を決定し、暴力を独占し続ける限り、国家の掌握こそが他のあらゆる力を凌駕する権力の通貨となるのである。

翌日の6月6日(金)、ロサンゼルスの人々はICEの急襲に反応し、数日間にわたって激しい騒乱が続いた。トランプはロサンゼルスに州兵を派遣し、暴力的な抗議こそが彼の望みだと主張していた人々の懸念を現実のものにした。しかし、州兵が到着しても抗議行動は収まらなかった。むしろ抗議行動は続き、連帯デモが全国各地へと広がった。これはトランプ政権発足以来初めての対立的デモの波となった。

2025年6月、ロサンゼルスのデモ隊。

「ノーキングス」抗議行動は6月14日に予定されていた。この日はトランプが自分の誕生日に合わせてワシントンDCで軍事パレードを企画していた日でもある。州兵が街頭に展開していたため、その日が軍事政権の幕開けになるのではないかと恐れる者もいた。

6月14日は、ミネソタ州でトランプ支持者が複数の民主党政治家を射殺する事件で幕を開けた。それでも、全国数千カ所で述べ500万人以上がデモに参加した。2014年8月そして2020年5月と同様、激しい対立は大規模な抗議に「先立って」起こり、人々を遠ざけるどころか、さらに多くの参加者を惹き付け、事態の緊急性を浮き彫りにすると共に、ニュースサイクルをトランプの支配から奪い取った。それとは対照的に、トランプの軍事パレードには僅か数千人の観客しか集まらなかった。

トランプ政権第2期の歴史において、第1章は6月14日の抗議活動で締め括られる。その日まで、抵抗への大衆的支持があるのか、国民に軍を向けようとするトランプの企てに対して周囲がどれほど消極的なのか、そして人々が街頭に出れば何が起こるのか、誰にも分からなかったのである。


第2ラウンド:ライヒスターク炎上

もちろん、ICEはロサンゼルスを離れなかった。その後、長期にわたる消耗戦が続き、ICEの私兵達は、かつてネオナチの街頭デモで用いられていた戦術を流用した。同時に、地元のオルガナイザー達も作戦マニュアルを作り上げ、彼等の動きを追跡し、ホテルから追い出し、迅速対応ネットワークを整備して抵抗した。

7月4日、テキサス州フォートワースの南部にあるプレーリーランド収容施設で行われていたデモの最中に銃撃事件が発生した。警察によって最終的に18人が逮捕され、「アンティファ関連物資の運搬」など複数の罪に問われた。トランプ政権はこれを「アンティファ」に対する初の法的訴訟と位置付け、抗議活動全般を犯罪化する前例を作ろうとした。この訴訟は今も係争中である。

8月初め、イーロン゠マスクと共に米国国際開発庁(USAID)の解体に関わっていたティーンエイジャーが、ワシントンDCのダウンタウンで暴行を受けたと訴えた。マスクは当初、彼をニューラリンク社で雇っていた。高校を卒業したばかりのこの少年は、8月には既に国務省・国土安全保障省・サイバーセキュリティ社会基盤安全保障庁(CISA)・連邦緊急事態管理庁(FEMA)・運輸保安局(TSA)・社会保障局の内部で働いていた。この経歴は、ドナルド゠トランプ政権下の連邦機関にどのような専門知識--そしてセキュリティ体制--が存在していたのか雄弁に物語っている。

トランプはこの機会を利用して州兵をワシントンDCに派遣した。しかし、ワシントンDCに州兵が展開しても、反対意見の表明は抑えられなかった。むしろそれは、権威の神話を打ち砕く効果をもたらした。軍を街頭に出しても統制の強化には繋がらず、かえって大陪審が検察に公然と反抗する事態を招いたのである。

9月10日、人種差別的宣伝家チャーリー゠カークが、ユタ州の大学でトランプの政策を宣伝している最中に銃殺害された。カークを殺害した若者は保守的な家庭の出身だったにもかかわらず、トランプとその支持者達はここぞとばかりに「左翼」への取締り強化を呼びかけた。あるトランプ支持者は皮肉抜きに、チャーリー゠カークの銃撃を「米国のライヒスターク放火事件」だと断言した。そして、トランプが政権に就いて以来初めて、全国各地の草の根ファシスト集団が公にデモを行った6

中道派はトランプとその支持者に政治的な隠れ蓑を与えた。彼等はカークの死を、米国で毎年生じる銃暴力による数万人の死者(3カ月前に暗殺された民主党政治家を含む)よりも重大な悲劇として扱う共和党員の合唱に加わったのである。彼等が恐怖に動機づけられていたのか、それとも人命への真摯な懸念からだったのか--ガザでの大量虐殺に沈黙していることを考えれば疑わしいが--は分からない。だが、いずれにせよその結果、トランプ政権とその支持者に事実上の白紙委任状が与えられたのである。

トランプとその取り巻きはファシズムへ向けて全速力で突き進んでいる。彼等は既にその場面の台本を事前に用意している。取締りの「口実を与える」などという発想そのものが成り立たない。彼等はどれほどこじつけであろうと、機会があれば何でも利用するつもりなのだ。重要なのは、他者がそれを可能にするかどうかである。1933年2月のライヒスターク放火事件でナチスがドイツで権力を強化できたのは、他の政治派閥がそれに反応してナチスに緊急権限を与えたからに他ならない。ライヒスタークの火災を止める方法は、国家の暴力に対抗して行動する者を抑え込むことではなく、いかなる情況であれファシスト的な企てや言説の正当化を拒むことである。それ以外は純然たる共犯なのだ。

チャーリー゠カーク、ホルスト゠ヴェッセルの仲間入り。

9月17日、トランプは「アンティファ」を「主要なテロ組織」に指定すると宣言した。トランプ政権はその計画の第一段階(「まず移民を狙え」)が順調に進んだと見て、次の段階(「次には反ファシストを狙え」)へ移行した。政府は自らファシズムを受け入れたとは宣言しない。ただ反ファシストを国家の敵と呼ぶだけである。

9月21日、アリゾナ州のスタジアムに約10万人が詰めかけ、チャーリー゠カークの追悼式と称するトランプの集会が開催された。スティーブン゠ミラーの演説はナチスの宣伝家ヨーゼフ゠ゲッベルスを彷彿とさせた。トランプとマスクが5月以来初めて一緒に姿を見せた。被害者として自らを演出することで、トランプとその支持者は6月の挫折の後に勢いを取り戻すことができた。ファシストは超人であると同時に弱者でもあるように見えなければならない。この矛盾こそが彼等のプロジェクトの原動力であり、核心である。

州兵は依然としてロサンゼルスやワシントンDCの街頭を占拠していた。トランプは、大規模なICE作戦が進行中のシカゴに加え、オレゴン州ポートランドにも州兵を派遣すると発表した。9月30日、彼は世界中の米軍関係者を招集し、米国の都市を「訓練場」として利用するよう指示した。

9月30日にトランプは米軍指導部の集会で宣言した。「我々は内部から侵略されている。外国の敵と何ら変わらない。」

10月8日、トランプは、反ファシストに関する恐怖と嘘の流布を商売にする極右の詐欺師達によるパネルディスカッションを開催した。ゲストの一人、ジャック゠ポソビエックは、トランプとその側近が満足げに頷く中で、「アンティファ」はワイマール共和国に起源があると明言し、政権がアドルフ゠ヒトラーの台頭に抵抗した者達を敵と見なしていることを、誰の目にも明らかにした。

ファシズムの反対者にとっては恐ろしい局面になった。雇用主が満足する形でチャーリー゠カークの死に反応しなかったことにより、数百人が職を失った。「ターニングポイント」組織は大学教授を次々と標的にし、停職処分に追い込んだ。『アンティファ:反ファシズム゠ハンドブック』の著者マーク゠ブレイは国外に逃れ、反ファシストのメディアプラットフォーム「It’s Going Down」は閉鎖された

こうした情況では、弾圧への備えに気を取られ、積極的な行動から手を引きたくなるのも無理はない。しかし、それを行えば主導権は当局に委ねられ、彼等の勢いをさらに加速させる結果にしかならない。

トランプ政権は次の攻撃段階の準備を進めていた。どこまで行くつもりなのか、そしてどれほどの速さで展開するのだろうか?

シカゴでICE捜査官がカメラマンに銃口を直接向ける。2025年秋。


潮目が変わる

10月18日に「ノーキングス」抗議行動が再び行われるのを前に、トランプ大統領とその取り巻き達は参加者を「ハマス支持者」や「アンティファ」、さらには「金で動員された抗議者達」で民主党の「テロリスト派」(「小規模だが非常に暴力的で声高なグループ」)だと決めつけていた。しかし、こうした非難が参加を思い止まらせた様子はなかった。予想を上回り、10月の抗議行動には約700万人が集まり、6月よりもはるかに多い人数となった。デモ自体は主に地元の民主党が統制する落ち着いたイベントだったが、幅広い層を引き寄せ、特にICEが活動している地域ではより直接的な抗議活動に参加したいと望む人々もいた。

トランプの州兵派遣は法的障害に直面していた。彼はサンフランシスコへ部隊を送るという脅しを土壇場で撤回した。ICEの作戦に対する抵抗はシカゴ全米各地で続き、新たな草の根ネットワークや戦術が形成されていった。

11月4日の選挙結果は、共和党支配に賛同する世論を形成するどころか、むしろ支持が失われつつあると示していた。ホットポテトは再び向きを変え、バイデンに抗議票を投じた有権者達は、今や経済の責任をトランプに負わせた。有権者はニューヨーク市長にゾーラン゠マムダニを選出し、中道派民主党員をあっさり退けた。彼等はトランプの勝利を理由に、民主党は政策をさらに右寄りにするべきだ、とまたしても主張していたのだ。また、マムダニの勝利はトランプに監視すべき新たな敵対者をもたらし、「アンティファ」から別の脅威へと関心を移させた。

選挙後、共和党内に新たな亀裂が見え始めた。極右ポッドキャスターのタッカー゠カールソンが公然たる反ユダヤ主義者に発言の場を与えたことをヘリテージ財団会長が擁護したために、財団のいわゆる「反ユダヤ主義タスクフォース」のメンバーは辞任した。パレスチナ人を絶滅させるためにキリスト教ナショナリストと手を組んだユダヤ人シオニストは、この連合にユダヤ人絶滅を望む者も含まれていることを恐らく既に理解していただろう。しかし11月までに、ユダヤ系シオニストが主導権を握っていないことは明らかで、選挙の敗北が見込まれる中、権力維持のためにその情況に甘んじる動機は薄れていた。

マージョリー゠テイラー゠グリーンは、ドナルド゠トランプがエプスタイン関連文書の公開を拒んだことを巡って対立し、議会を辞任せざるを得なくなった。彼女は「全てが消えて良くなることを願う『虐待された妻』にはならない」と述べた。彼女の辞任はトランプ支持基盤の一部が不満を感じていることを示唆する一方、ドナルド゠トランプが依然として共和党政治家に対して生殺与奪の権力を握っていることを示している。ウラジーミル゠プーチン、ヴィクトル゠オルバン、レジェップ゠タイイップ゠エルドグアンがそれぞれロシア・ハンガリー・トルコで確立したような政府支配を米国で固めるためには、トランプは最も強固な同盟者さえ犠牲にできると示さねばならない。成功した専制政治は、例外なくこうした茶番めいた内紛や地位を巡る争いを伴う。競争的権威主義と呼ばれるのも無理はない。

分極化した政治情況の中、こうした亀裂によってトランプ支持層の大多数が彼から離反するとは考えにくい。しかし、これらはトランプが常に強さを誇示しなければならない理由を物語っている。トランプの支持者達は、彼への崇拝のために自らを貶め、虚偽を公言し、残虐行為を正当化し、認知的不協和に耐え抜いてきた。その見返りが途絶えた瞬間、彼等には地獄が待っているのだ。

正義の遅延は、正義の否定である

トランプ大統領が就任した際、ビットコインは彼が暗号通貨の規制緩和を約束するとされる前から急騰していた。そのピークは、ホワイトハウスの委員団が「アンティファ」への恐怖を煽る直前だった。しかし11月には急落し、価値の約3分の1を失った。その頃、人工知能投資バブルが崩壊して株式市場が暴落するのではないかとも囁かれていた。一部の共和党員は、トランプの関税や度重なる無謀な行為が経済危機の一因になるのではないかと恐れていた可能性が高い。こうした懸念から、彼等がトランプに最も媚び諂う支持者として名を連ねようとする熱意は薄れたのかも知れない。

11月26日、不満を募らせたアフガニスタン戦争の退役軍人が、ワシントンDCで2人の州兵を射殺した。トランプはこの事件を再び利用して反移民キャンペーンを強化しようとしたが、彼のライヒスターク放火戦略は既に充分な効果を上げられなくなっていた。そもそもトランプが州兵をDCに派遣していなければ、この銃撃事件は起きなかったと言える。「彼女はハエを捕まえるためにクモを飲み込んだ…何故ハエを飲み込んだのか、私には分からない。」

11月29日、ICEはニューヨーク市で大規模な作戦を試みたが、民衆の抵抗完全に阻止された。人々はICE捜査官を取り囲み、活動を妨げ、市外へ追い出した。トランプ大統領が連邦機関を政治的武器に変えようとした強硬な試みは、国民を抑え込むどころか、かえって彼等を煽り立て、絶望と恐怖から情熱的な集団行動へと駆り立てたのである。


これからの闘い

12月15日、反移民強制捜査に関する世論調査の急落を背景に、連邦機関がより抑制的な戦略に移行するというニュースが広まった。同じ日、カシュ゠パテル率いるFBIは「反資本主義・反政府運動」のメンバーとされる5人を逮捕したと述べ、その内4人は爆弾製造の陰謀に関与したと主張した「この刑事告発」は、典型的なおとり捜査事件の様相を呈している。

2025年の終わりに、私達は再び新たな転機を迎えている。連邦機関が移民以外の標的に対して未だ全力で動いていないのは、民衆がICEの活動を妨害しようと必死に抵抗してきたからに過ぎない。これは連帯の真の意味を如実に示している。明日自分を守る最善の方法は、今日お互いを守ることである。トランプとその取り巻きは、もし可能ならすでに私達のコミュニティで超法規的殺人を行っているはずだ。いずれそうなる可能性は残されている。

反ファシストを標的にする準備を整えた以上、ほぼ必然的に連邦機関は実行に移すだろう。今、キャリアを積みたいFBI捜査官にはおとり捜査事件を企てる動機があり、より野心的な襲撃も恐らく進行中だろう。もしこれらの行動が民衆を沈黙させ、でっち上げがテレビ視聴者に好意的に受け入れられ、世論が民衆の抵抗に敵対するなら、トランプ政権だけでなく、大喜びで厄介者を始末したがっている民主党の政治家達も勢いづくだろう。次の弾圧に対して私達は、人々がICEの急襲に対して迅速対応ネットワークを形成したのと同じように、結集して新しい戦術を試みる形で対応しなければならない。

連邦機関がアナキストを国内における第一標的と宣言したのはこれが初めてではないし、今世紀初めてですらない。FBIも2005年5月に同様の措置を取った。7カ月も経たない内に、彼等はSHAC7起訴(ハンティンドン動物虐待阻止行動で起訴された7人)と並ぶ「緑狩り」の最重要案件の一つ、「バックファイア作戦」を開始した。過去20年を振り返ると、圧力に屈して運動を分断させないことが、セキュリティ文化の具体的実践と同じくらい安全にとって重要だと分かる。

もしトランプの支持が崩壊し続ければ、彼が敵対者を組織的に標的にすることは防げるかも知れない。しかし、彼がもたらす危険性は減らない。もし情況がさらに不安定になれば、ライヒスターク放火のような事件が相次ぎ、シャーロッツビルの再来のような事態も増えるだろう。ベンヤミン゠ネタニヤフのように、彼は戦争を扇動するか、あるいはそれ以上のことをして自分の審判の日を逃れる手段を取る可能性もある。

それでも、逃げ道はなく、前に進むしかない。今日、誰の目にも明らかだ。国家の暴力に抵抗する能力を築くことから始めなければ、より良い未来への道は開けないのだ。


選挙

主に自らの職の安泰を気にしている民主党の政治家達は、議会自体が行政・司法によってほぼ実権を奪われているにもかかわらず、人々の関心を2026年の選挙に向けようとしている。2026年の選挙は、トランプの2期目にとって、第1期目に対してモラー捜査がそうであったようなものになるかもしれない。つまり、真の権力構築という緊急の問題から人々の注意を逸らす見世物になる可能性があるのである。人々がどのように投票しようと、街頭でも政府内部でも勢力均衡がトランプに不利に傾かない限り、選挙は意味を持たない。

2022年、トルコの同志達は、レジェップ゠タイイップ゠エルドアン大統領の統治下でも、同じような構図が生じていると報告していた

過去10年間、民衆がエルドアンに致命的な一撃を与えると期待される選挙が途切れることなく現れてきた(中略)これらの選挙は国民投票から大統領選、議会選挙、市長選挙まで、少なくとも6回行われている。その内の幾つかでは「正しい」結果が得られるまで投票が繰り返された。

ドナルド゠トランプは、自発的に権力を手放すつもりはないと明確に示している。10月23日、スティーブ゠バノンは、彼が3期目を務められるようにする計画があると述べた。もしジョージ゠フロイド蜂起がなければ、トランプは2020年のクーデター未遂で国家機構のより多くの部分を動員できたかもしれない。今回は、当時彼を支持しなかった全ての機関の上層部に忠誠派を据えた。今期の政権を前回以上に分裂した状態で終える可能性もあるが、それは私達が相当な圧力を掛けた場合に限られる。

手遅れになる前に、戦術を更新しよう

トランプが自発的に権力を放棄しないのなら、私達は抗議戦略をそれに応じて再検討しなければならない。武装した占領勢力でも容易に対抗できない形で影響力を行使できる能力を築く必要がある。デモ参加者が手に負えないほど乱暴ではないのだから州兵派遣は不要だと主張する民主党は、トランプを利する考え方をしているに過ぎない。落ち着いて行儀良く行動し続けるなど、ファシズムへの道を開くだけだ。問題は群衆をどう制御するかではなく、私達自身がどうすれば制御不能になれるかである。

選挙での勝利だけを望む人々であっても、2020年に見られた拙訳)ように草の根の抗議行動がどれほど重要か理解しなければならない:

当時、中道派は、論説に次ぐ論説で、2020年5月と6月の街頭対立が選挙をドナルド゠トランプに振れるようにするかもしれないと懸念を表明していた。実際には、2020年6月の民主党の有権者登録は50%増加し、共和党の有権者登録は同じ月に僅か6%しか増加しなかった。2020年に投票方法を決める要因として抗議行動を挙げた人々は、7%もの差をつけてジョー゠バイデンに投票していた

つまり、ジョージ゠フロイド反乱がバイデンの当選を助けたのだ。

そして、覚えておいてほしい。ジョージ゠フロイド反乱は有権者登録運動から始まったのではない。所轄警察署の焼き討ちで始まったのだ。『ニューズウィーク』の世論調査によれば、調査対象者の54%が、これは正当な行為だと考えていた。これが起こらなければ、ジョージ゠フロイドやブリオナ゠テイラー等の殺人を公の議論に押し出せなかっただろうし、選挙で民主党が勝利しなかっただろう。不公正の原因に対して実際に行動を起こさなければ、強力な運動を創り出せないのだ。

たとえトランプが選挙やその他の手段で権力を失ったとしても、権威主義は存続する。これが優勢なモデルとなった今、政治スペクトラムのあらゆる立場の政治家--エリック゠アダムズだけでなくゾーラン゠マムダニですら--が、君臨する専制的指導者にすり寄ったり、ギャビン゠ニューサムのように彼等の手法を取り入れたりしている。共和党は作り直され、一人の男の私的な乗り物になった。偽善的なルール遵守者として自らを誇示しようと懸命に努力した民主党は、大急ぎでライバルを模倣している

もしトランプが権力を失ったなら、権力闘争が起こり、その勝者は彼自身のような専制指導者になる可能性がある--どちらの政党であろうとも。これが、真の社会変革を望むなら草の根運動を築くべきもう一つの理由である。そうした運動は、代議制政治に依存せず、誰が公職に就こうとも効果的に行動できなければならない。

私達は、どれほど善意ある民主党員であろうと、選挙綱領をどう更新しようと、彼等が本物の代替案ではないことを誰にでも分かるように示さねばならない。民主党が資本主義の生み出す諸問題に取り組めなかったため、バイデン政権は結果として何百万もの人々をトランプに投票させることになった)。もしトランプを再び権力から追い出せても、このサイクルが繰り返されるのなら、次のファシズムの波は私達の想像を超えるほど恐ろしいものになるだろう。

トランプに対する運動は、選挙政治を超えて深く掘り下げ、先を見据えなければならない。私達は、権力を一般の人々の手に委ねる実践を中核に据えねばならない。資本主義とそれを支える暴力、そして政党政治を出し抜き、その正当性を失わせる戦略を追求するのである。そもそも億万長者を生み出す仕組みを解体しなければならない。私達は既に、その姿の断片を垣間見ている

問題は、単一の政治家・政党・政府よりも遥かに大きい。トランプを米国で権力に押し上げたのと同じ力が、アルゼンチンチリ欧州でも同様の人物に権力をもたらしている。私達は、何世紀も続いた社会秩序が終焉を迎える苦しみに耐えているのだ。それは、社会秩序そのものと共に私達をも破壊しかねない。直面する差し迫った問題を、新しい生き方を皆で協力して築けるようなやり方で解決できなければ、生き残れない。これこそが、迅速対応ネットワークに秘められた可能性である。

学校付近でICE監視任務に就く地域住民。


トランプ時代を脱するには

いかにして専制的指導者を打倒するのか?

まず、彼の支持基盤の中から、彼の支配を恒久的に支持しているわけではないが、その支持が彼を権力維持に不可欠な層を特定する。7そして、その層の関心事を分析する。彼の支配を維持することよりも、彼等にとって何が重要なのかを見極め、彼等の弱点について考えてみるのである。次に、そうした層が支持を撤回したくなる情況に追い込むことのできる活動形態を特定する。

何があろうと、その活動に取り組む。社会の充分な部門が支持対象を変えるまで、必要なだけ繰り返し行う。

2020年夏にも、これと似たことが起きた。トランプは連邦捜査官をポートランドに集中させ、資本家階級に属する支持者に対して、自分が秩序を効果的に確立し、平常通りの経済活動を維持できると示そうとした。本質的に彼は、クーデターへの投資を検討する人々に対し、「概念実証」を提示しようとした。しかし彼は失敗し、主要な資本家の多くは2021年のクーデター未遂を支持しなかった。この結果は、毎晩街頭に結集した群衆の功績である。彼等の勇敢な活動が連邦捜査官を打ち負かしただけでなく、トランプの権力維持の試みは支配階級の一部を危険に曝すだけであるという確信を抱かせたのだ。

2025年春の反テスラ抗議運動は、この戦略の有効性を示した。ファシスト扇動者・キリスト教ナショナリスト・テック億万長者から成る統一戦線に直面し、抗議者達はテスラ販売店に圧力を掛け、僅か3カ月で驚くべき成果を上げた。偶然か否かは別として、トランプとトランプ連合の最も強力な参加者の一人であるイーロン゠マスクとの同盟は崩壊した。それは、2025年6月のロサンゼルス蜂起直前に起こり、重要な局面でトランプの注意を逸らしたのである。

もし私達がドナルド゠トランプやその後継者の専制的支配下で生涯を送りたくなければ、直接行動を用いて彼の支持基盤を分断し、これまで受動的だった人々に彼に反対する立場を取らせねばならない。

そして、問題の根源に踏み込まねばならない。


好機

旧来の制度が混乱し、政治家への信頼が過去最低に落ち込む今こそ、実に、強力な解放運動にとっては絶好の時期だ--仮にそうした運動が存在するならば。最大の問題は敵の強さではなく、私達自身の弱さである。

数え切れないほどの人々がトランプの政策の被害を受け、日々「恐怖で抑止された怒り」という感情的現実を生きている。将来に対する恐れが先行する中、それにほぼ並ぶ勢いで、国家暴力への恐怖も高まり続けている。もしトランプの支配に亀裂が生じれば--例えば、彼の勢力を一貫して出し抜く運動が現れれば--蓄積した膨大なエネルギーが解き放たれる可能性がある。その基盤の上で人々を団結させられる者がいれば、何百万もの人々が殺到して足を踏み出す道を切り開くだろう。

バイデン時代の米国には戻れない。イーロン゠マスクとドナルド゠トランプがもたらした破壊は取り消せない。しかし彼等は、どれほど緊急に真の変化が必要なのかを何百万人もの人々に示した。彼等が生み出した瓦礫の中で、私達の歴史的記憶と福祉に関わる諸制度が、少数のナルシシストの思うままにされてはならないという点は誰の目にも明らかだ。誰もが認識できるはずだ。法制度は最初から、任命された人数が少し違うだけで専制政治に傾きかねない危うさを抱えていた。そして政治機構全体は常に、大多数を自らの主体性から遠ざけるように機能してきたのだ。

少なくとも、今や境界線ははっきりしている。極右は、もはや自らに資金提供してくれる億万長者に反対する振りなどできない。億万長者どもは、もはや万人に繁栄をもたらす振りなどできない。ヘリテージ財団と行動を共にしたシオニストどもも、もはやファシズムへの抵抗を代表している振りなどできない。シリコンバレーが社会的繋がりを深め、人工知能が私達をより創造的にし、暗号通貨が豊かさをもたらすなど、未だに誰が言い張れるのか?2020年にICEや警察を弁護した人々は、今やそれらをありのままに見なければならない。それらは、暴君に仕えようと待ち構える予備軍なのだ--そして同時に、国境とは、様々なコミュニティ同士の境界線ではなく、その内部に開いた傷口であることも認識しなければならない。

最悪の事態に備える一方で、最善のシナリオを実現するための準備も積極的に進めるべきだ。この情況は恐ろしいが、生き延びることができれば、私達は別の世界にたどり着く。今こそ、闘いの只中で、そこに到達するために何が必要なのかを見極め、提案を広め、その実現に向けて共に踏み出そう。

ロサンゼルスの高速道路を封鎖するデモ隊。


億万長者どもと対立するのは君だ。彼等は太陽系史上最も強大な帝国の富と権力を掌中に収め、好き勝手に使える。君達が頼れるのは、己の創意工夫、仲間の連帯、そして君達と同じ境遇にある何百万人もの切迫した思いしかない。億万長者どもが成功しているのは、他人を犠牲にして自らの手に権力を集中させたためだ。君達が成功するには、「誰もが」より力を持てるようになる方法を示さねばならない。この闘争では2つの原理が対峙している:一方は全ての生物を犠牲にして個人的権勢を肥大化させる原理。もう一方は、個人の力が全ての人間・全ての生物の自己決定を拡張し、それぞれが自らの生を選び取れるようにする可能性である。

億万長者とアナキスト


  1. 「利益追求型経済は必然的に富を増々少ない手に集中させる。グローバル化した世界では、このプロセスを逆転させようとする国からは投資家が逃げていく。だからこそ、今日では最も裕福な国でさえ、社会民主主義を支えるあらゆる制度を切り捨てざるを得ず、一般市民の犠牲の上に市場を健全だとされる状態に保っている。この問題は私有財産とそれを擁護する国家の革命的な廃止によって解決できる。しかし、資本主義を存続させたまま社会民主主義の基盤を維持するには、その恩恵を受ける者を限定するしかない。-シリザはギリシャを救えない:選挙が危機の出口ではない理由 

  2. 「ヨーロッパで資本主義が封建制の後を引き継いだように、代議制民主主義は国家のヒエラルキー内部に流動性をもたらしたため、君主制よりも持続可能だと証明された。ドルと投票箱はいずれも権力をヒエラルキー型に分配し、ヒエラルキー自体への圧力を和らげる装置である。封建時代の政治的・経済的停滞とは対照的に、資本主義と民主主義は絶え間なく権力を再分配する。この動的柔軟性のおかげで、潜在的な反乱者は既存秩序を打倒するよりも、その内部で地位を向上させる見込みの方が大きい。その結果、反対派は政治体制を脅かすのではなく、内部から再活性化することが多いのである。」-民主主義から自由へ 

  3. ヘンリー゠フォードとイーロン゠マスクはファシズムと白人至上主義に対する親和性を共有している。その一方、よく知られているように、フォードは1919年に自社株を全て買い占めて非公開化した。それとは対照的に、マスクは主に株式市場での投機によって莫大な富を築いており、テスラ株は実際の販売収益に比べて大幅に過大評価されている。 

  4. 米国でドナルド゠トランプに対峙している人々は、中国ロシアカザフスタンなどの権威主義的体制下における抵抗を研究すると良いだろう。 

  5. 民主主義者の常套句はこうだ:「私から全てを奪い去れ。だが、この事態を私が自らの自由意志で選んだという考えだけは残しておけ!」 

  6. あるジャーナリストが8月、『プラウドボーイズはどこへ行ったのか?』と問うた。チャーリー゠カークの組織「ターニングポイント」は、この機会を利用して全国に支部を設立しようとした。極右がもはや反体制の振りをする利点を失った今、こうした草の根勢力がどこまで拡大できるかはまだ分からない。 

  7. 怒りに支配されたソーシャルメディアの時代には特に、専制的指導者の熱烈な支持者につい注目したくなるが、それは誤りだ。指導者の退陣を見るくらいなら死んだ方がましだと考える人々に焦点を当てても、得られるものはほとんどない。